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F－3．「人称代名詞」について整理する

＜これだけは＞人称代名詞とは

　人称代名詞とは、いわゆる「人を指す」代名詞で、韓国語文法では「사람대이름씨」なんて呼ばれたりします（고영근,구본관(2008：71),우리말문법론,집문당）。よく代名詞は、1人称、2人称、3人称という区別をしますが、

　1人称＝自分（話し手）のこと

　2人称＝相手（聞き手）のこと

　3人称＝自分と相手以外のこと

と解釈すればいいと思います。

だから、さらにこれらは単数、複数に分けられるわけですが、

　1人称＝自分だけ（わたし）、1人称複数＝自分たち（わたしたち）

　2人称＝相手だけ（あなた）、2人称複数＝相手たち（あなたたち）

　3人称単数＝その他、3人称複数＝その他大勢

と解釈すればよいのです。

韓国語の人称代名詞は、3人称の그녀（彼女）以外、男性女性の区別がありません。日本語のように韓国語では「おいどん」「わし」「あっし」「あたい」のような、キャラクターの区別ができないことも特徴です。よって、語尾の「～だわ」「～だぜ」のような性差も表すのが難しいです。ただ、「말투（口癖／口調）」が、「男性っぽい」「女性っぽい」という区別はあり、特に、「다나까体」と呼ばれる軍隊口調は男性っぽい言い方とされています。

（１）わたし

　目上にへりくだって言う場合は、「저」を使います。へりくだって言うので、文末の語尾は丁寧な語尾とセットで使います。

　同い年、年下に対しては「나」を使います。親しい学校の先輩、会社の先輩にも使うことがあります。ぞんざいな言い方なので、会話での文末語尾は、「パンマル（ため口）」になります。また、作文で格式のある「한다体（である調）」で書くときの「わたし」は、「나」を使います。

　　・저は「습니다体」または「해요体」とセット（作文でも感想文は「저」＋「습니다体」で書く）

　　　저도 같이 갑니다./저도 같이 가요.（私も一緒に行きます。）

　　・나は「パンマル（ため口）」とセット

　　　나도 같이 가（わたしも一緒に行く。）

　　・ただし、親しい先輩と話をする時は、「나」を使いつつ「해요体」で話す時もある。（韓国では家族の間でもため口を使わない家庭も多いので、

　　この話かたは家族間でも使われる

       나도 같이 가요.（私も一緒に行きます。）

　　・「습니다体」ではなく「한다体（である調）」で作文する時は「나」を使う。

　　　나는 ～라고 생각한다（わたしは～と考える。）

（２）わたしたち

　目上にへりくだって言う場合は、「저희」を使います。面接や商業取引場面、スピーチなどで使われることが多いです。なので「私ども」というニュアンスが強いです。

　聞き手も含めた「わたしたち」の時に使います。また、自分の家のことについて、「うちの～」と述べる時に使います。

　「저희」は完全に聞き手を含めませんが、「우리」は文脈によって聞き手を含めたり、含めなかったりします。

　　・「저」は「습니다体」または「해요体」とセット（作文でも感想文は「저」＋「습니다体」で書く）

       저희 회사에서 준비했습니다.（わたくし共の会社（弊社）で準備しました。）

　　・「우리」は基本的に「わたしたち／自分たち」全般の意味で使うので、丁寧な話し方だけでなく、ため口でも使います。

　　　우리는 열심히 해야 돼요.（私たち頑張らなければいけないです）

       우리는 열심히 해야 돼.（私たちは頑張れなければいけない）

　　・「우리」は、家族の意を表す「うちの～」の時にも使えます。「わたしの」は、わたし「저」＋の「의」の形「저의」というのもありますが、「저의」は自分の所持品や、自身の考え（저의 생각：私の考え）、自身の身体（저의 머리：私のあたま）の時に使い、「わたしの姉」という時は「우리」を使った方が自然です。

　　　우리 누나는 대학생이에요.（私の姉は大学生です）

　　　우리 집（うちの家／私の家）

　　・恋人間でも「우리」はよく使われ、「私の（うちの）〇〇」のような言い方もします。〇〇には彼氏、彼女の名前が入ります。この言い方は、「うちのかわいい〇〇」のようなニュアンスもあり、母親が子どもにたいしても使います。

　　　우리 철수야～（私のチョルス～）

（３）あなた

　韓国語の「あなた」は、「너（君、お前）」以外それほど使われません。よく教材に「あなた＝당신」と書いてあるのですが、使い方が難しく注意が必要です。目上の人に「あなた」ということが基本的にできないので、名前がわからない時は相手の名前を聞いて『名前で呼ぶ』ようにしてください。呼ぶときも注意が必要で、韓国では名字で呼ぶことがないので、フルネームに「さん」の意味がある「씨（氏）」を付けて呼ぶようにしましょう。

　・人称代名詞としてよく使うのは「너」のみです。「너」は「나（私）」と違い絶対に目上の人には使えないので気を付けてください。語尾は一般的にため口です。

　　너도 같이 와.（お前も一緒に来い）

　「お前」というニュアンスが強いため、聞き手によっては不快に思う場合があります。夫婦、恋人間であっても、「あいての名前で呼ぶ」ほうが関係が長続きするような気がします。

　・「자네」は、大学教授が弟子に使うような言い方です。「너」よりは尊重が感じられます。ただ、「ある程度年齢のいった大人が、20代以上の若者に使う感じがする」ので、10代、20代の皆さんは、いくら年下だといっても使わない方がいいです。おじさんぽくなります。女性の大学教授も使うことがありますが、「そこの若者よ」という感じになるので、この言葉を使えるかどうかは、キャラクターに左右される気がします。

　　자네 과제는 해 왔나?（君、課題はしてきたかい？）

 　・「당신（あなた）」は 夫婦の間で呼び合う時に使う代表的な代名詞です。ただし、若い夫婦は名前で呼び合うことが多いようです。普段から「당신」と呼び合っている夫婦はいいのですが、普段名前で呼び合っていた夫婦が急に「당신」を使いだしたら、「相手が腹を立てている」というサインになります。「당신」は夫婦間で普段から使っていれば親しみがある言葉ですが、普段使っていないのに急に使いだしたら「距離を置く」ための言葉になります。恋人間でも同じことが言えます。

　　당신이 있어 줘서 고마워요.（あなたがいてくれてありがとう）

　　당신 지금 뭐라고 그랬어?（（腹を立てて）あんた今何ていったの？）

　・腹を立てているという観点から、警官が取り調べするときにも使われやすいです。腹を立てている時は、「お前」というニュアンスが強くなります。

　（이익섭, 이상억, 채완(2004：222),韓国語概論 （梅田博之監修、前田真彦訳）,大修館書店）

　　당신이 한 거지!（お前がしたんだろ！）

　・また、「당신」は、広告文句、設問調査の質問項目としても使われます。「文句」と同じように、「詩」「歌詞」でも、「訴えかける」という点でもよく使われます。

　　당신의 건강을 지킵니다.（あなたの健康を守ります。）

　　당신은 건강을 위해 무엇을 하고 있습니까？（あなたは健康のために何をしていますか。）

　・「그대」は、手紙、詩、歌詞で使われます。手紙で使う場合は、「恋い慕う『君』」というようなニュアンスが強くなります。

　　그대를 기다릴게요.（あなたを待ちます）

　・「댁（お宅様）」「어르신（あなた様）」は使える用途が限られています。非常に使いこなすのが難しいので、ここでは省略します。

（４）あなたたち

　同い年または、年下なら「お前ら」「あんたたち」は使えますが、日本語でも「あなたたち」を使う場面は限られていると思います。「あなたたち」を「당신들」と言ってしまうと喧嘩口調にしかとらえられないので、「みなさん」で代用しましょう。

　・「너희（お前たち）」は、さらに「들（たち）」を付けて、「おまえたちたち」の形で使うことが多いです。「きさまら」と言いたいときもこの「너희들」を使います。

　　너희들 언제 공부할 거야?（お前らいつ勉強するんだ？）

　・ただ「너희」は、目下の人に対しても使いにくいことばです。 学校の校長挨拶、大衆に向けての演説、行事での挨拶などで、年下に向けて「あなたたち」という時は、「여러분（みなさん）」を使った方が無難です。「당신들」「너희들」は使わない方がいいでしょう。

　　여러분 열심히 한국어 공부하고 있죠?（みんさん、頑張って韓国語の勉強していますよね？）

（５）、（６）は、日本語訳と韓国語の大きなニュアンスの違いはありません。ただ、「얘（この子）, 걔（その子）, 쟤（あの子）」「걔네들（その子たち／あの子たち）」という言い方は、ある程度大きくなった男子大学生の間でもよく使われます。「こいつ、そいつ、あいつ」に近い意味があると思ってください。

＜さらに＞助詞がついた形

　人称代名詞のうち「저」「나」「너」は、助詞がつくと形が変わります。全ての助詞ではなく、「이/가（が）」「의（の）」の時のみなので、「저」「나」「너」を覚える時に一緒に覚えてしまいましょう。

×「저가、나가、너가」にならず、

〇「제가、 내가、 네가」になるわけには、

歴史的理由があります。もともと助詞「が」に該当する助詞は「이」しかなく、昔は、

　저이(저ㅣ) （私が）

　나이(나ㅣ)（わたしが）

　너이(너ㅣ)（君が）

という形だったのですが、これが縮約され、かたち上

　제

  내

  네

と表記されていました。形は現在の「저의（私の」の縮約の形「제」と一緒ですが、意味は「私が」と一緒です。

しかし、後世に助詞「가」が増えることになって、パッチムが無いものに「가」が適用され、「제（私が）」に、さらに「가（が）」が加えられ、今の形、「제가」になったというわけです。ですから、それぞれ、

　저ㅣ＋가＝제가

　나ㅣ＋가＝내가

　너ㅣ＋가＝네가

という形に変わったというわけなんですね。

　現在の「내가」「네가」は読み方は一緒ですが、形がしっかり異なるのは、もともと「나にㅣがついた내」と、「너にㅣがついた네」という形上の由来のためです。字で見るとことなりますが、発音が一緒なので、会話ではわかりにくくなってしまいます。そこで、表記はそのままに、会話では、お前の「네가」の発音を「니가」で発音することが一般的です。

　形の縮約という観点から同じように、「제（私の）」も説明できて、

　저＋의＝제というのは、　저 ㅢ　のㅡが消え、ㅣの部分が저に組み込まれた形をとります。　저ㅣ＝제（私の）

　「네（君の）」の発音も「네가（お前が）」と同じく、「내（わたしの）」と混同されるため、

　「네（君の）」を「니」で発音します。

 他には、「제게（私 に）」「내게（わたしに/僕に）」「네게（君に/お前に）」もあり、

　저＋에게＝제게というのは、　저 에　のㅓが消え、ㅣの部分が저に組み込まれた形をとります。　저ㅣ＝제になって、「제게」となります。

　저에게 ⇒ 제게（私に）

  나에게 ⇒ 내게（わたしに/僕に）

  너에게 ⇒ 네게（君に/お前に）

＜もっと詳しく＞呼称および呼称としての代名詞

（１）呼称

　人を呼ぶときに、名前がわからないからと言って適当に「あなた」と呼べないのは、日本も韓国も一緒です。長い付き合いになりそうだと判断したときは、しっかり自己紹介し合って、名前を憶えて、名前で呼ぶようにしましょう。韓国で名前を呼ぶときには、次の注意が必要です。

※下の名前だけで呼び捨てにするとき、パッチムのある名前に、「이」を入れて言うことが会話の中では自然です。詳しくは、「이/가」の解説にある「名前の後ろにつく『이』」を参照してください。

※また、人を呼び止める時「チョルスやーい」のような感じで、「철수야！」と「야」を付けることがあります。これは、気づいてもらうために呼びかける時付ける「呼格助詞」と呼ばれるものです。パッチムのある名前には「야」ではなく「아」を付けて呼びます。「민경아！（ミンギョンやい）」

（２）親しい間柄、年の差もあまりない年上の人の呼称

　親しい学校の先輩、または会社の先輩を韓国では、「お兄さん」「お姉さん」と呼ぶ習慣があります。ただ、会社の社風によっては、この呼び方を禁止しているところもあるので、社会人は注意が必要です。学校生活で親しくなかったり、親しくしたくなくて距離を置きたいときは、「お兄さん」「お姉さん」と呼ばず、「선배（先輩）」と呼びます。

　チョルス先輩：（男性なら）철수 형、（女性なら）철수 오빠

   ミンギョン先輩：（男性なら）민경 누나、（女性なら）민경 언니

　恋人間でも、これらは有効で、親しみを込めて年上の恋人を「오빠」「누나」と言うことが一般的です。

　ただ、先輩を人に紹介する時にも、「형, 오빠, 누나, 언니」という語を使うので、本当のお兄さん、お姉さんなのかは確認が必要です。先輩が後輩を呼ぶときは基本名前で呼びますが、後輩を紹介する時に「동생（年下の兄弟の意）」と紹介することもあるので、こちらも確認が必要になってきます。

　本当の兄：친형, 친오빠

　本当の姉：친누나, 친언니

　本当の年下の兄弟：친동생

※ちなみに友達を紹介する時、「친구（友達）」というと、「同い年の友達」のみを指すことが多いので、社会生活で出会った年上、年下の友達を紹介する時は使わない方がいいでしょう。ただし、バイト先の店長が、お客に、「新しいバイト仲間だ」と紹介する時に「친구」と言うことがあったり、文脈によって意味がことなる場合もあります。

（３）親しい間柄：上夫の呼び方、年上妻の呼び方

　年の差夫婦で、どちらかが年上の場合は「오빠」「누나」で呼び合うことが普通ですが、あえて相手を尊重し名前に「씨」を付けて呼ぶ人も多くいます。特に、「親戚の集まり」の場では、普段「오빠」「누나」と呼び合っていたとしても、義理の父母（妻の父母、夫の父母）の前で「오빠」「누나」を使うと、「目うの人を丁寧に呼びなさい」と注意する親もいますので、気を付けましょう。

　また、子どもがいる夫婦だと、夫のことを自分の子どもの名前＋아버지、妻のことを自分の子どもの名前＋어머니という言い方をします。

　例： 철수（子どもの名前）아버지

　日本でもママ友間、幼稚園の先生が「〇〇ちゃんのお母さん」のような言い方をしますが、韓国では夫婦間でも使えるということです。

（４）親しい間柄：親の友人の呼び方

　これは日本人があまり経験することではありませんが、子どもが自分の親と同じくらいか、それより若くても「お兄さん」と呼ぶには、年上すぎる男性に対して「삼촌」と呼ぶことがあります。「삼촌」は本来、父方の（結婚していない）男兄弟の呼び方ですが、「お兄さん」というには目上の存在、「아저씨（おじさん）」というのは、他人行儀すぎると感じる時使います。母親の友人を子どもの立場から「이모（母方の姉妹の意）」と呼ぶこともあります。

（５）全く知らないけど、道端やお店の中で「すみません、ちょっと」と呼び止めたいとき

　道端でなんか落とした時、「ちょっと、落としましたよ」と呼び止めたいとき、名前も知らないし、「あなた」というのも失礼になるし、と困ることがあります。そういう時は、自分の年齢、相手の見た感じ年齢などを考慮して、呼びかけることになります。

　失礼になってもいい、とりあえずこの場だけの関係だと思ったら、

　おじさんには「아저씨（おじさん）」、おばさんには「아줌마/아주머니（おばさん）」でいいと思います。あまりしたくしくない親の友達であれば、こちらを使うのが一般的です。食堂のおじさん、おばさんにも呼び掛けるときはこれを使ってＯＫです（日本だとだめだと思いますが）。

　ただ、食堂やお店の主人に対して「아저씨」「아줌마」は失礼かなと思ったら、「사장님（社長様）」と呼ぶといいと思います。「사장님」は、日本で言うところの「よっ社長！」みたいなニュアンスもあるので、とりあえず誰か知らないけど、「道でであった男性」に「저기, 사장님」と呼び止めることも可能です。しかし、自分の年齢が若すぎて、相手によっては「何が社長だ、この若造が！」と気分を害する人もいるので注意してください。

　あと、自分より年上っぽくて若い女性の食堂従業員に対しては、「언니」「누나」などが使えます。男性でもこの場合店員には、「언니」が使えます。「아가씨（お嬢さん）」というのは自分がある程度の年齢でないと使うことができないですし、「아가씨」と呼ばれることを嫌がる女性もいるので男性が女性店員を呼ぶときには気を付けてください。

　また、見知らぬ人に「선생님（先生様）」と呼びかける言い方もあります。こちらは、「사장님」よりは無難に使えます。日本でも政治家や画家、作家を「先生」と呼ぶことがありますが、それに似ています。食堂では使えません。

　相手が明らかに「学生っぽい」人には、道端でも、アルバイトでも、「학생」と言って呼び止めます。ただ、自分の年がもうすでに学生ではない年（30代以上）じゃないと、「お前も学生だろ」と相手に思われる可能性があるので、注意が必要です。自分が呼び止められるとき「학생」と呼ばれることがあるので、自分が「学生っぽいな」と感じるのであれば、この言葉に敏感になっていた方がいいでしょう。

　お店、銀行、公共施設において、従業員がお客に対して、「손님（お客様）」という言い方もありますが、「고객님（顧客様）」という言い方も普及しています。ただ最近は、高齢者に対して「고객님」を使うのは失礼だという意見があり、高齢のお客に対しては、「어르신（あなた様）」で呼ぶ施設も増えています。

　「어르신」というのは、高齢の大人へ対する呼び方で、「할아버지（おじいさん）」「할머니（おばあさん）」の代わりにも使えます。見知らぬおじいさん、おばあさんには親しみを込めて「할아버지」「할머니」と言っていいのですが、「お客と従業員」という立場だと、何かと呼び方に気を使うようです。

（６）その他

このほかにも、呼称は、親戚の呼称があります。韓国の親戚の呼称はかなり複雑なので、ここでは省略します。