E－18．本日の三文（ 依頼の伝聞の作文）
＜これだけは＞
「依頼の伝聞」（依頼の間接引用）の前に一度、依頼表現を整理しておきます。
ここでいう「依頼」というのは、「自分のためにお願いをすること」という意味で使っています。ですから、「相手のために案内やアドバイスしてあげる」こととは異なります。しかし、この二つは、日本語では曖昧になってしまうので、注意が必要です。
＜自分のためにお願いすること＞＝依頼
例１：すみません、これ「ください」。
例２：あのう、すみません、これ両替して「ください」。
＜相手のために案内やアドバイスしてあげること＞＝命令・指示
例３：そっちは危ないからこちらに来て「ください」。
例４：この薬を一日三回、食後に飲んで「ください」。
例１・２も例３・４のどちらにも「ください」という言葉が入っていますが、例１・２は自分のためになるお願いである反面、例３・４は、相手のためになる案内やアドバイスとなっています。日本語だと、どちらも「ください」が使われるためにこの区別がわかりにくくなっています。
しかし、韓国語の場合はどうでしょうか。
＜自分のためにお願いすること＞＝依頼
例５：저기요, 이거 주세요 （すみません、これ「ください」。）
例６：저기 죄송한데 이거 환전해 주세요.（あのう、すみません、これ両替して「ください」。）
＜相手のために案内やアドバイスしてあげること＞＝命令・指示
例７：저쪽은 위험하니까 이쪽으로 오세요.（そっちは危ないからこちらに来て「ください」。）
例８：이 약을 하루 세 번 식후에 드세요.（この薬を一日三回、食後に飲んで「ください」。）
例５・６はどちらも「주세요」という表現ですが、例７・８は「動詞語幹＋(으)세요」という形になっています。「주세요」があると、「自分のため」、「動詞語幹＋(으)세요」は相手のため、という形の上でもはっきりとした違いが表れるのです。
これらを伝聞（間接引用）で表す時韓国語では、「自分のため」＝依頼と、「相手のため」＝命令や指示と区別して表さなければいけません。命令については、E-16でも説明してありますので、命令の伝聞について整理できていな方は、そちらをご覧ください。ここでは、「依頼」を詳しく見ていくことにします。
「依頼」の間接引用表現
例５：저기요, 이거 주세요 （すみません、これ「ください」。）
例６：저기 죄송한데 이거 환전해 주세요.（あのう、すみません、これ両替して「ください」。）
を間接引用にすると次のようになります。
例７：저는 가게 주인에게 이거 달라고 했어요. （私は店の主人にこれ「ください」と言いました。）
例８：저는 은행원한테 이거 환전해 달라고 했어요.（私は銀行員にこれを両替して「ください」と言いました。）
韓国語の依頼の間接引用は、「주세요」の部分を「달라고」に変えるだけでいいのです。これは単純に「ください」というときの「주세요」もそうですし、「～してください」の「해요体＋주세요」の形の時も同じです。
＊依頼の引用の場合、「해 달라고 하다」以外にも「해 달라고 부탁하다（してくれとお願いする）」「해 달라고 기도하다（してくださいとお祈りする）」という形をとることもできます。
＜さらに＞
上の方で「自分のために」の時は、「依頼」と言いましが、伝聞という性質上「第3者が『自分のために』何か依頼をした」場合のセリフを引用する時も使えますので、必ずしも、言った人が私とは限りません。例えば、Ａくんがデパートで偶然、友達Ｂ君がＢ君のお父さんにこんなセリフを言う場面に遭遇したとします。
例９：아빠, 동물의 숲 사 줘요. （お父さん、どうぶつの森買ってよ）
これをＡ君が次の日、Ｂ君がお父さんといる場面を見たことを伝える場合、
例１０：야, 너 어제 너네 아버지한테 동물의 숲 사 달라고 했었지? 나도 그때 백화점에 있었거든.
（おい、お前昨日お父さんにどうぶつの森買ってくれって言ってただろう。俺もその時デパートにいたんだよ。）
という言い方ができます。
ちなみに、この「달라고」ですが、「달다」という動詞の語幹「달」に命令の伝聞「(으)라고」が付いている形をとっています。「지 말라고」と同じ活用ではあるのですが、「달다」は、単独で使われるということはなく、伝聞でのみ使うので、「달라고 하다」という形で覚えておいたほうがいいでしょう。
＜もっと詳しく＞
しかしながら、この「依頼」というものも「依頼なのか、命令なのか」曖昧な時があります。というのは、第3者が依頼として発言したことであっても、伝え手（聞き手）によっては、「命令」のように感じる場合もあるからです。
上の例９は、Ｂくんが「自分のため」に買ってくれといっているのは明白ですが、次のような場合はどうでしょうか。
チョルスのお父さんが、チョルスに対して手伝ってくれ（依頼）という場合。
例１１：철수야, 좀 도와 줘.
チョルスのお父さんは、「自分のために」手伝ってくれと言いているので、「주다」が使われています。しかし、チョルスが、したくないのに手伝ったとします。すると、チョルスの心の中に「命令された！」という気持ちが生じるはずです。この「命令された！」という気持ちを誰かに伝えようとすると、実は、「命令」の伝聞に切り替わることがあるのです。
（チョルスがお母さんに、お父さんから手伝ってくれと言われたということを伝える時）
例１２：엄마, 오늘 아빠가 도와 주라고 해서 일 도와 줬는데, 그것 때문에 학원 지각했어.
（お母さん、今日お父さんが手伝えって言うから仕事手伝ったんだけど、そのせいで塾に遅刻しちゃったよ）
「주라고」というのは、「주다（くれる／あげる）」の語幹「주」に、命令の伝聞「(으)라고」がついた形です。「달라고」ではないので、「しろって言う」のように、命令口調で解釈できる伝聞です。
もし、チョルスが父親の依頼をそのまま「依頼」として伝えるならば、
例１３：엄마, 오늘 아빠가 도와 달라고 해서 일 도와 줬는데, 용돈 주셨어.
（お母さん、今日お父さんが手伝ってくれって言うから仕事手伝ったんだけど、お小遣いくれたんだよね）
となります。
伝える側の気分によって、「依頼」の「달라고」にもなり、「命令」の「주라고」にもなるという点で、依頼を伝える言い方というのは少し難しい面があります。