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Ｄ－３２．漢字語のㄹ脱落について整理する。

＜これだけは＞

「頭音法則（頭音規則）」

　漢語の中には、単語の語頭に来る子音に制約がある場合があります。例えば、子音「ㄴ」から始まる漢字「女（녀）」は、「男女（남녀）」のように二文字目以降では「女（녀）」そのままで発音（表記）できますが、「여자（女子）」のように語頭に来ると、「女（여）」と子音がなくなった状態で発音（表記）します。　また、「理（리）」は、二文字目以降で「摂理(섭리)」のようにそのままですが、「理想（이상）」のように語頭では、「이」と子音がなくなった状態で発音（表記）します。以上のように本来ある子音を語頭で発音（表記）しないものがあったり、さらに、「来（래）」のように、二文字目以降では「未来（미래）」のようにそのままで、語頭では「내일（来日＝あした）」のように「ㄹ」と「ㄴ」の入れ替えがあるものがあります。

　いずれにせよ、「頭（最初）の音が変化するルール」が適用されています。これを「頭音法則」または「頭音規則」と呼んでいます。

　特に、単語の始めに「ㄹ」つまりラ行が来ないというのは、韓国語の特徴（厳密にはアルタイ語族という語族の特徴）でもあります。韓国語辞典を開くと「ㄹ」から始まる単語は外来語くらいしか見つけることができません。「ㄹ」から始まる単語は言いにくいというのが理由のようですが、北朝鮮語では頭音規則がなく、「労働」「料理」は「로동」「료리」と発音（表記）します。韓国では「노동」「요리」と発音（表記）するのが一般的です。

「韓国人のローマ字表記とハングル表記の違い」

　韓国のスポーツ選手が着るユニフォームに姓をローマ字表記にしている人をよく見かけます。 韓国のローマ字表記には1939年に作られた「McCune–Reischauer法」、1984年から施行された「ローマ字表記法」、2000年に告示された改訂版等があるのですが、ここでは複雑な話は省略して、韓国人の姓の発音と、ローマ字の発音が大きくずれている物についてだけ取り上げます。

　例えば、韓国で「李」さんは、「이」さんと呼ばれていますが、ローマ字表記では、「LEE」になっていたりします。発音では「i」なのに、なんで「LEE」なのかと不思議に思った人もいるのではないかと思います。

　これには理由があって、そもそも韓国語での「李」の漢字音は「리」と読み、ローマ字表記はそれに忠実に表記されているわけです。「임（林）」さんなんかも、「Lim」とされていたりしますが、これは本来の「林」の漢字音が「림」であることに由来します。

　韓国語では、「ラ行から始まる漢字音は、ラ行を発音しない」というルールが適応されるために、このような複雑なことが起きてしまうのです。

　北朝鮮では、「ラ行から始まる漢字音も、そのまま発音する」ので、本来の読み方もローマ字表記もずれはあまありありません。

　韓国の「李」さんや、「林」さんの間では最近、「YI」や「IM」にあらためる人が出ているようなので、段々とローマ字表記も実際の発音に近くなりつつあります。

「姓でラ行を表記する人のアイデンティティ」

　韓国語では、「ラ行から始まる漢字音は、ラ行を発音しない」というルールが適応されるため、本来ラ行から始まる姓であっても、基本的にラ行で発音しません。

※「ラ行がㄴ」に変わっている人がいますが、このルールについては、「Ｄ－３３．漢字語라,래,로が語頭に来るの場合、나,내,노になる単語について整理する」をご覧ください。

　ただし、韓国語のこのようなルールができる前は、「ラ行を読まないルール」は徹底されていた分けではなく、自分が呼びたいように呼んでいました（日本でも渡部を「わたべ」というか、「わたなべ」というかは、その人次第なところがありますよね）。そのため、「昔から自分の事を「류（柳）」と呼んでいた」「内の家系は先祖代々「류（柳）」だ」というアイデンティティを持っている人は、わざわざこのルールを適応させない人も多いです。「李」や「林」を「리」「림」と読ませる人はそんなに多くありませんが、「류(劉)」「류(柳)」さんは、「유さん」「류さん」が併存しているよに感じます(例：류시원（柳時元））

　また、北朝鮮では、「ラ行を読まないルール」がないため、本来の漢字音で発音されます。

　韓国内でも「北朝鮮の地方に祖父のルーツがある」とか、「祖父がラ行で発音していた」「戸籍上ラ行になっている」ということを誇りにしている人もいるので、「ラ行の姓を持つ人の呼び方」は、漢字だけ見て判断せず、「本人に確認する」というのがよいでしょう。

　実際私の知り合いで、「おじいさんの姓だから「유(劉)」じゃなくて、「류(劉)」と正確に読んでほしい」と友達に呼び方を指定している人もいました。たまに、「「유(劉)」じゃなくて、「류(劉)」だったら北朝鮮出身かい？」とからかう人もいるようなのですが、「どう呼ばれたいか」は、その人のアイデンティティと関わることなので、呼ばれたい姓で呼んであげるのが一番です。

「漢語の流音『ㄹ』は、『ㅣ, ㅑ, ㅕ, ㅛ, ㅠ, ㅖ』の前では『無音』になる」

　「리, 랴, 려, 료, 류, 례」を持つ漢語は、語頭に来る場合、「이, 야, 여, 요, 유, 예」と置き換えられます。

＜리から始まる漢字＞

＜랴から始まる漢字＞

＜려から始まる漢字＞

＜료から始まる漢字＞

＜류から始まる漢字＞

＜례から始まる漢字＞

＜さらに＞

※「楽」は特殊で、「락」「낙」「악」三つの音で発音（表記）されます。「楽しい／安楽」の意味で使われる時は、「락/낙」の対応で、「音楽」の意味では「악」だけが使われるようです。

「合成語」や「四字熟語」、「固有名詞」には適用されない

　「合成語」や「四字熟語」、「固有名詞」にはこのルールが適用されない場合があります

　해외여행（海外旅行）등용문(登竜門)

　일거양득（一挙両得）

　국제연합（国際連合）

「렬」「률」は、前に「母音」または鼻音「ㄴ」が来ると、「열」「율」になる。

　「한글 맞춤법（ハングル綴り字法）第3章第5節附録1」によると、漢字音「렬」「률」は、前に「母音」または「ㄴ」が来ると、「열」「율」で発音（表記）することになっています。この二つの漢字音は、二文字目以降になったとしても「렬」「률」にはならな点に注意が必要です。

「렬」「률」の前が「母音」または「ㄴ」の時

「렬」「률」の前が「母音」または「ㄴ」ではない時

＜もっと詳しく＞

「「렴（炎）」は、特殊で『ㅣ, ㅑ, ㅕ, ㅛ, ㅠ, ㅖ』の前では『無音』にな らない。

　「리, 랴, 려, 료, 류, 례」を持つ漢語は、語頭に来る場合、「이, 야, 여, 요, 유, 예」と置き換えられますが、「폐렴（肺炎）」の場合は「렴（炎）」のまえに、「ㅖ」がありますが、「렴」になります。

　炎：폐렴（肺炎）

　さらに、「이, 야, 여, 요, 유, 예」以外でも「無音になる」ので注意が必要です。

　간염（肝炎）、뇌염（脳炎）