G-2.漢字っぽさとは何か

 

 日本語の漢字には、訓読みと音読みの二つの読み方があります。訓読みは、日本語本来の言葉(和語=音声)に、だいたい同じ意味の漢字(文字)を当てはめて読む読み方です。一方の音読みは、中国語の読み方をそのまま使った読み方です。ただし、音読みは中国語なのですが、日本人が聞き取る時、正確な発音ではなく、聴こえた通りに(自分勝手に)仮名に置き換えたものが現在に伝えられた読み方です。また、朝鮮半島を経由して伝わったものもありますので、「朝鮮なまり」の中国語を日本人が聞いて、さらに「日本なまり」の変化を起こしたものもあります。

 音読みは、聴こえた通りの自分勝手な音なので、そのまま中国語で使ったり、朝鮮語で使ったりということはできないのですが、たまたま正確な中国発音、朝鮮なまり発音に近い音があったりするので、「中国語と同じ発音をする漢字」というものもあるし、「朝鮮語(韓国語)と同じ発音をする漢字」というのがあります。

 同じような音読み漢字を例にとってみると、「安」は中国語で「ān」、韓国語で「」と発音します。また、「氏」は中国語で「shì」、韓国語で「」、「単」は中国語で「dǎn」、韓国語では「」だったりします。 韓国語の中で、「日本語と発音と意味が近い」単語があるとすれば、それは漢語である可能性が高くなります。

 勿論全然異なる発音をする物のほうが多いので、韓国の漢語を覚えるとなるとそれなりの努力が必要です。ただし、大元をたどれば中国の漢字音なので、「昔の日本人が中国の音(朝鮮経由も含め)をどのように聞き取ったか?」という感覚を身につけると(ルールを見いだせると)、覚える速度が早くなります。

 昔の日本人が中国の音(朝鮮経由も含め)をどのように聞き取ったかをルール化して、表にしたものも既に出版されてはいますが、ルールを一つ一つ覚えるのではなく、漢字熟語(主に二字熟語)を覚えながら、自然に身につけるほうが良いと思います。たくさん漢語に触れていると、「これは漢字語だな」とか「これは漢字語じゃないな」ということが判別できるようになるので、少し難しいですが、ニュースや新聞の記事を意識的に読む習慣をもつとよいでしょう。

 

 ここではちょっとだけ「これは漢字語だな」「これは漢字語じゃないな」という感覚が身についた人が、どんな感覚をもっているかを説明しておきたいと思います。

 

(1)「ㄷ, ㅅ, ㅈ, ㅊ, ㅋ, ㅌ, ㅍ, ㅎパッチム」の漢字音はない!=漢字音は「パッチム無し」か「ㄱ, ㄴ, ㄹ, ㅁ, ㅂ, ㅇ」の六つのパッチムしかない。

 

 漢語がいくら多いと言っても、「ㄷ, ㅅ, ㅈ, ㅊ, ㅋ, ㅌ, ㅍ, ㅎパッチム」の漢字音はありません。だから、「」「」「」などは漢語として存在しません。逆を言うと、「ㄷ, ㅅ, ㅈ, ㅊ, ㅋ, ㅌ, ㅍ, ㅎパッチム」がある単語は「固有語」の可能性大(というか固有語でしかない)です。

 

(2)「ㄱ, ㄴ, ㄹ, ㅁ, ㅂ, ㅇ」の六つのパッチムがあっても、母音との組み合わせによっては存在しないものもある。

 「ㄱ, ㄴ, ㄹ, ㅁ, ㅂ, ㅇ」の六つのパッチムがあると漢字音の可能性が高くなりますが、以下の母音と組み合わさっている漢字音はありません。

 

엑, 옉, 얙, 왝,  웍, 윅

얀, 욘, 엔, 앤, 옌, 얜, 왠, 왼, 윈

얄, 욜, 엘, 앨, 옐, 얠, 왤, 욀, 윌

얌, 옴, 욤, 윰, 엠, 앰, 옘, 얨, 왐, 왬, 욈, 웜, 윔

얍, 옵,욥,윱,엡,앱,옙,얩,왑, 왭,욉,웝,웝

엥,옝,얭,왱,웡,윙

 

」という母音は、「)」「(憩)」「」「(祭)」「(細)」のように漢字音に多く登場しますが、パッチムと結合し「」「」「」「」「」「」となることはありません。

外来語であれば「넥타이(ネクタイ)」「렉서스(レクサス)」「(M)」という結合が可能ですが、漢字音にはありません。

ほかにも上記のようなハングル表記は、存在しないか外来語で使用されるという特徴があります。

 

(3)日本語との対照で、ヤユヨの音がある場合の制約

 

日本語を母語にしている人であれば、漢字音の感覚が身に付くと、「韓国語だったらこんな感じで発音すればいいかな」という『あてずっぽうで漢字音を当てる」ことができるようになります。「日本の漢字音―韓国の漢字音」の対応によって、「韓国の漢字音にはこの対応はないだろうな」という感覚が身につくことがあるのですが、日本の漢字音にヤユヨの音がある場合の対応が身に付くとあてずっぽうが楽になります。

 

@日本の音で「キョ(去)」「キャク(脚)、キョク(局)、ギャク(逆)、ギョク(玉)」は、「겨, 교, 갹, 격, 굑」にはならない。

」「」などは、日本の音で、「キョ、ギョク」ではなく、「キョウ(教、橋)」のような長音、「カク(格)、ゲキ(激)」といったヤユヨの音(拗音)ではない音と対応します。

 ほかにも、日本の音が「シャク、シュク、ショク、ジャク、ジュク、ジョク」「チョク」「ニャク」「ヒャク、ビャク」「ミャク」なども、

 「샥, 슉, 쇽, 셕, 죽, 족, 적,」「촉, 쳑」「」「햑, 뱍」「」「」とはなりません。

 

 ただし、「チャク」「リャク」は、ほぼ同じような発音の「(着)」「(略)」という漢字音が存在します。

 

A日本の音で「シュ(種)」、「シュウ(周)」、「シュツ(出)」「ジュツ(術)」「シュン(旬)」「ショウ(紹)」は、「」「」の音があらわれない。

 「ジュン(準)」であれば「」になりますが、種(종)、週(주)、周(주)、出(출)、術(술)、旬(순)といった、「조, 추, 수」といった音と対応します。

 「シュ」は他に、主(주)、手(수)、酒(주)、守(수)、取(취)、趣(취)があります。

 

 ※基本的に日本の音で「ツ」で終わるものは、「パッチム」が付きます。 また、日本の音で「ン」で終わるものには「パッチム」「パッチム」がつくのですが、「シュン」に関しては、「슌,슘」というのがありません。

 

B日本と韓国の音の対応で、「ニュウ」=「」、「ニョウ」=「」、「ヒョウ」=「」といったものはない。

 「ニュウ」「ニョウ」「ヒョウ」は、入(입)、乳(유)、柔(유)、尿()、表(표)、票(표)、標(표)、評(평)、氷(빙)といった対応をとります。

 

C 「キョウ」=「」、「チョウ」=「조, 초」、  「ジュウ」=「」、「チュウ」=「」、「ミョウ」=「」は、と対応したり、対応しなかったりする。

  橋は「」、調、趙、兆、朝は「」、超は「」という対応、住は「」、駐、柱、注、肘、宙、昼、酎、厨は「」、妙は「」といった近い音での対応があります。

 

  ただし、これらの多くは、帳(장)、長(장)、聴(청)、跳(도)、徴(징)といった多様な対応になるので、対応して覚えることが困難です。

  ほかに「ジュウ」=十(십)、銃(총)、重(중)、従(종)、獣(수)、拾(습/십)、充)충)、「チュウ」=中(중)、忠(충)、仲(중)、衷(충)、「ミョウ」=墓()、廟()、描()、猫()、苗()といった対応があります。

 

(4)日本語で「ヤユヨ(拗音)」以外の長音となるもは、特殊な対応をする。

 日本語との対照で、ヤユヨの音がある場合の制約も@〜Cと多様ですが、長音との対応も多様です。

 

日本語で「ヤユヨ(拗音)」以外の長音とは以下のもののことです。

 「エイ、オウ、ケイ、ゲイ、コウ、ゴウ、セイゼイソウゾウテイトウ、ドウ、ネイ、ノウ、メイヘイ、ベイ、ホウ、ボウ、モウヨウレイロウ

 

長音系は、以下のように発音の似ている物も多いのですが、似ていない発音と対応することの方が多いです。

 

<似ている発音と対応するもの>

「ケイ」=計(계)、系(계)、啓(계)、掲(게)、憩(게)、継(계)、契(

「コウ」=高(고)、考(고)、校(교)

「トウ」=陶(도)

「ホウ」=報(보)、砲(포)、包(포)、飽(포)、宝(보)

「モウ」=毛(모)

「ヨウ」=要(요)、幼(요)、曜(요)、揺(요)、謡(요)

「レイ」=例(례)、礼(례)  ※隷は「」だが、ほとんど「」でしか使われない。 あまり似ていないが励(려)、麗(려)もある。

「ロウ」=労(로)、老(로)、露(로)(루)、漏(루)

 

<少し似ているものと対応するもの>

「エイ」=鋭(예)

「セイ」=勢(세)、世(세)、西(서)、制(제)

「ゼイ」=税(세)、勢(세)

「ソウ」=走(주)、奏(주)、草(초)、捜(수)

「テイ」=低(저)、帝(제_、体(체)、提(제)、諦(체_

「ヘイ」=幣(폐)、閉(폐)

「ボウ」=某(모)、帽(모)、貿(무)、冒(모)、貌(모)

 

<似ていないものと対応するもの>

「メイ」=迷(미)

「ベイ」=米(미)

「デイ」=泥(니)

 

ただし、日本語で「ヤユヨ(拗音)」の長音「キュウ、ギュウ、キョウ、ギョウ、シュウ、ジュウ、ショウ、ジョウ、チュウ、チョウ、ニュウ、ニョウ、ヒョウ、ミョウ、リュウ、リョウ」、それ以外の長音

 「エイ、オウ、ケイ、ゲイ、コウ、ゴウ、セイ、ソウ、ゾウ、テイ、トウ、ドウ、ネイ、ノウ、メイ、ヘイ、ベイ、ホウ、ボウ、モウ、ヨウ、レイ」のほとんどは、「パッチム」か「パッチム」になります。※ゼイ、ロウはあまりありません。贅(췌)、脆(취)といった特殊な対応になったり、パッチムになるものも「籠(롱)、聾()、浪(랑)、郎(랑)」と少数です。

 

(5)日本語で「ツ」「チ」で終わるものは、「ㄷ, ㅌ, ㅅ, ㅈ, ㅊ, ㅎ」パッチムにならない。

 

 漢字音にはそもそも「ㄷ,ㅌ,ㅅ,ㅊ,ㅈ,ㅎ」が出現しないので、「月(ゲツ」を「」にしたり、「一(イチ)」を「」にしたりすることはありません。

「アツ、イツ、イチ、ウツ、エツ、オツ」「カツ、ガツ、キツ、キチ、クツ、ケツ、ゲツ、コツ」「サツ、ザツ、シツ、シチ、セツ、ゼツ、ソツ」「タツ、ダツ、タチ、チツ、テツ、トツ」「ナツ、ニチ、ネツ」「ハツ、ハチ、バツ、バチ、ヒツ、フツ、ブツ、ベツ、ボツ」「マツ、ミツ、メツ、モチ」「リツ、レツ」のほとんどは、「パッチム」か「パッチム」になります。

 ただし、「パッチム」になるものは少数派なので、「パッチム」と「チ、ツ」の対応を意識的に覚える必要があります。

 アツ:(압)、ザツ:(잡)セツ:(섭)、接(접)リツ:(입)ラツ:(랍)

パッチム」は「長音」との対応の方が多いので混乱しないようしなければなりません。

パッチム」の漢字音は以下のようなものがあります。

 

キュウ:級(급)、給(급)、扱(급)、吸(흡)、泣(읍)

ギュウ:なし ※牛「

キョウ:協(협)、狭(협)、脅(협)

ギョウ:業(업)

シュウ:集(집)、習(습)、輯(집)、拾(습/십)、讐(습)

ジュウ:十(십)、渋(삽)

ショウ:捷(첩)、妾(첩)

ジョウ:なし

チュウ:なし

チョウ:諜(첩)、帖(첩)

ニュウ:入(입)

ニョウ:なし

ヒョウ:なし

ミョウ:なし

リュウ:立(립)、粒(립)

リョウ:なし

 

オウ:鴨(압)、邑(읍)

コウ:甲(갑)

ゴウ:業(업)、合(합)

ソウ:挿(삽)

ゾウ:なし

トウ:答(답)、塔(탑)、踏(답)、搭(탑)

ドウ:なし

ノウ:納(납)

ホウ:法(법)

ボウ:乏(핍)

モウ:なし

ヨウ:葉(엽)

 

また、「チ、ツ」と「」が対応するものには次のようなものがあります。

 

アツ:(압)、斡(알)

イツ/イチ:逸(일)、一(일)

ウツ:鬱(울)、蔚(울)

エツ:悦(열)、越(월)、謁(알)、閲(열) ※咽は「」、嗚咽の時は「

オツ:乙(을)

カツ:活(활)、括(괄)、渇(갈)、褐(갈)、滑(활)

ガツ:月(월)

キツ:吉(길)、吃(흘)、詰(길)、 ※喫は「

キチ:吉(길)

クツ:屈(굴)、窟(굴)

ケツ:結(결)、決(결)、欠(결)、穴(혈)、血(혈)、潔(결)、傑(걸)、闕(궐)

ゲツ:月(월)

コツ:骨(골)、忽(홀)、乞(걸)

サツ:札(찰)、撮(촬)、察(찰)、擦(찰)、殺(살)、刹(찰) ※刷は「」、殺は「」とも

ザツ:(잡)

シツ:質(질)、室(실)、失(실)、嫉(질)、叱(질)、執(집)、湿(습)

シチ:七(칠)

セツ:節(절)、説(절)、切(절)、設(설)、洩(설)(섭)、接(접) ※「説」は遊説の場合「유세」、「切」は「一切」のばあい「일체」とも

ゼツ:絶(절)、舌(설)

ソツ:卒(졸)、率(솔/율))

タツ:達(달)

ダツ:脱(탈)、奪(탈)

タチ:達(달)

チツ:膣(질)、秩(질)、窒(질)

テツ:鉄(철)、徹(철)、哲(철)、轍(철)、迭(질)、撤(철)、綴(철)

トツ:突(돌)、凸(철)

ナツ:捺(날)

ニチ:日(일)

ネツ:熱(열)、捏(날)

ハツ:発(발)、髪(발)、醗(발)

ハチ:八(팔)、蜂(벌)

バツ:罰(벌)、閥(벌)、抜(발)

バチ:罰(벌)、蜂(벌)

ヒツ:必(필)、筆(필)、畢(필) ※「泌」は「

フツ:仏(불)、払(불) ※「沸」は「

ブツ:物(물)、仏(불)

ベツ:別(별)、蔑(멸)

ボツ:没(몰)、勃(발)

マツ:末(말)、抹(말)

ミツ:密(밀)、蜜(밀)

メツ:滅(멸)

モチ:勿(물)

ラツ:辣(랄)(랍)

リツ:率(율/률(솔))(입)(율)、栗(율)

レツ:列(열)、烈(열)、劣(열)、裂(열)